Neversink Farmは、ニューヨーク州キャッツキル山地に位置する約0.6haの有機農場で、単位面積あたりの生産性と収益性が全米トップクラスの農場として広く知られています。
具体的な数値としては約0.6haの農地で年間約40万ドル(約6,000万円※1USD=150円換算)の収益を上げており、反収(10アールあたりの収益)約1,000万円に相当します。
有機農業では、除草剤を使用しないため、雑草管理が常に大きな課題となります。雑草との果てしない闘いに追われるか、あるいは雑草と共存する自然農法のような方向性を志向するのが、一般的な有機農業のイメージではないでしょうか?しかし、Neversink Farmは、そのどちらにも属さない、非常にユニークなアプローチを取っています。
Neversink Farmは有機農場でありながら、雑草を徹底的に管理し、圃場を驚くほど整然と保っています。その手法は感覚に頼るものではなく、ロジカルで合理的なシステムに基づいています。「雑草のない農場(Weed Free Farm)」という理想を掲げ、実際にそれを実現する姿には説得力があります。
この記事では、Neversink Farmの農場長であるConor Crickmore(コナー・クリックモア)氏の知見をもとに、有機農業でありながら効率的に雑草を管理する方法について深掘りします。Precision cultivation(精密耕作)や具体的なツールの使い方、そしてその結果もたらされる驚きの効果まで、徹底的に解説していきます。
雑草のない農場とは何か
真の「雑草ゼロ」は存在しない
完全に雑草のない農場を実現することは可能なのでしょうか?Conor氏は次のように語ります
真の意味での雑草ゼロの農場は存在しません。雑草の種は土壌やハウス内の至る所にあり、完全に排除することは不可能です。
では、Neversink Farmが目指す「雑草のない農場」とはどのような状態なのでしょうか?それは、「目に見える雑草がない」状態を維持することです。雑草が目立たない環境を作り出すことで、収穫作業や作物の品質が向上し、農作業全体が効率化されます。この目標に向けて、農場の日々の作業において雑草管理を組み込み、雑草が種をつける前に確実に駆除することが重要です。
単に雑草が種をつける前に刈るのは管理プログラムではありません。雑草を根本から管理するシステムが必要なのです。
Neversink Farmの成功の背景には、こうした地道な雑草管理の取り組みがあるのです。
「目に見えない雑草」の管理が重要
雑草管理において重要なのは、「目に見えない」段階で対処することです。Conor氏は、「雑草が目立つ大きさに成長してしまうと、除去が難しくなるだけでなく、根が残って再び成長する」と指摘します。このため、雑草が発芽直後の段階で対処することが推奨されています。
発芽直後の雑草は目に見えないほど小さく、土壌の表面を注意深く観察しないと確認できません。この段階でPrecision cultivation(精密耕作)を行うことで、一度の作業で数万もの雑草を駆除できます。さらに、この作業を定期的に実施することで、土壌中の「シードバンク」(雑草の種の蓄積)を減少させることが可能になります。
このプロセスを徹底することで、雑草が目に見えるほど成長する前に効率的に抑制し、農場全体の管理がスムーズに進むようになります。
スレッドステージ(発芽直後の段階)で雑草を駆除する意味
スレッドステージ(発芽直後の段階)で雑草を駆除すると、雑草の99%以上を除去できます。この段階で作業を行うことが、農場全体の効率を決定づけます。
雑草がスレッドステージ(発芽直後の段階)を超えると、駆除が難しくなるだけでなく、作業時間が増加し、作物の品質にも影響を及ぼします。耕作ツールを活用して畝を1回通過するだけで、多数の雑草を効果的に除去できるこの段階は、雑草管理の最適なタイミングと言えるでしょう。
スレッドステージでのPrecision cultivation(精密耕作)は、農場運営の基盤であり、日常的に行うべき重要な作業です。これにより、雑草のない農場が実現し、作業の効率化が図られます。
精密耕作の重要性
畝の直線性と均等性が成功の基盤
Precision cultivation(精密耕作)を成功させるためには、畝の直線性と作物間の均等な間隔が重要です。Conor氏は、「畝がまっすぐで、作物間の距離が均等であれば、ツールを列に沿って速く移動させるだけで作業が完了します。」と述べています。
正確な耕作は、収穫や播種の効率を大きく向上させます。また、ツールが適切に畝にフィットするため、雑草の駆除が確実に行えるだけでなく、作物へのダメージも防げます。Neversink Farmでは、グリッター(Gritter)と呼ばれるツールを使用して、畝や列を均等に整え、効率的な作業を実現しています。
小さな雑草を効率的に駆除する方法
Precision cultivation(精密耕作)の大きな目的は、小さな雑草を効率的に駆除することです。特に、発芽直後の段階での駆除が重要です。先述の通り、雑草が小さいうちに作業を行えば、1回の耕作で99%以上の雑草を取り除くことができるのです。
畝を効率的に進むためには、ワイヤー・ホー(Wire Hoe)やコリニア・ホー(Collinear Hoe)といったツールを活用することが有効です。これらのツールは、作物の間や葉の下に入り込むことが可能で、狭いスペースでも正確に雑草を駆除できます。また、土壌の表面を滑らせるだけで十分であり、深く耕す必要がありません。
作業を定期的に行い、雑草が大きくなる前に駆除することで、農場の管理が容易になります。Conor氏は、「雑草を見つけてからでは遅い。目に見える前の段階で、迅速に作業を行うことが重要です。」と述べています。
耕作深さのポイント:表面をかすめるだけで十分
耕作ツールが土壌に入るのはわずか1ミリ以下で十分です。土壌の表面をかすめるだけで、発芽直後の雑草を効果的に取り除けます。
深く耕す必要がない理由は、雑草が発芽直後の段階でまだ根を深く張っていないためです。土壌を浅く耕すだけで、根を太陽光にさらし、乾燥させて枯らすことができます。また、浅い耕作は土壌の構造を壊さず、作物に優しい方法でもあります。
特に粘土質や硬い土壌では、Collinear Hoe(コリニア・ホー)のような硬いツールが効果を発揮します。このツールは硬い土壌の表面を滑らせるように動かすことができ、効率的に雑草を除去します。また、ワイヤー・ホー(Wire Hoe)は作物の列間に適しており、狭いスペースでの作業をスムーズに行えます。
Precision cultivation(精密耕作)では、土壌を深く掘らず、表面をかすめるだけで作業を完了できるという考え方が重要です。
ツールとタイミングが成功の鍵
ワイヤー・ホーとコリニア・ホーの特徴と使い方
雑草管理の効率を最大化するためには、適切なツールの選択が重要です。Neversink Farmでは、主に以下の2つのツールが使用されています。
- Wire Hoe(ワイヤー・ホー)
このツールは、列間の雑草を効率的に除去するために設計されています。ワイヤー状のヘッドが狭いスペースに入り込み、作物を傷つけずに雑草を駆除できます。
ワイヤー・ホーは、雑草が小さいうちに作業を行うことで、圧倒的な効果を発揮します。
(日本ではあまり見かけない農具です。土質が違うからでしょうか。DIYできそうな農具ですので、自作して実験してみようと思います)
https://neversinktools.com/collections/wire-hoes - Collinear Hoe(コリニア・ホー)
レタスなどの葉の下に入り込む作業や、畝の端を処理する際に適したツールです。硬い土壌にも対応できるため、粘土質の畑でも効率よく作業が進められます。
https://neversinktools.com/collections/mutineer/Colinear-Hoes
日本ではあまりみかけない農具ですね。土質が違うからフィットしないのでしょうか?
DIYできそうな構造なので、自作して実験してみようと思います!
これらのツールは、適切なタイミングで使用することで、雑草管理の効率を大幅に向上させます。Conor氏は、「ツールを切り替えながら作業を進めることで、効率的にPrecision cultivation(精密耕作)を行えます。」と述べています。
フレームウィーダー:雑草管理の最強ツール
フレームウィーダーは、発芽直後の雑草を駆除する最速で最も信頼できる方法です。歩きながら操作するだけで、驚くほど簡単に雑草を処理できます。
作物を植える前の雑草管理には、Flame Weeder(フレームウィーダー)が最も効果的です。このツールは、炎を使って雑草を焼き尽くす方法で、特に発芽直後の雑草を大量に処理するのに適しています。このツールを作物の植え付け前に使用することで、畝全体の雑草を効率的に処理できます。
また、Flame Weeder(フレームウィーダー)は、畝と通路の間の狭いスペースにも対応可能です。小規模農場では特に便利で、雑草管理をスムーズに進めるための必須アイテムと言えるでしょう。
畝や通路に適したツールの選び方
雑草管理の効率を最大化するためには、ツールごとに適切な使い方や用途を理解することが重要です。畝や通路の状態、作物の間隔、雑草の成長段階に合わせてツールを使い分けることで、Precision cultivation(精密耕作)の効果を最大限に引き出せます。
1. 畝の管理
畝の管理には、Wire Hoe(ワイヤー・ホー)とCollinear Hoe(コリニア・ホー)が適しています。ワイヤー・ホーは、細いワイヤー状の刃を使い、作物の列間に入り込んで雑草を駆除します。作物を傷つけることなく作業できるため、発芽直後の雑草の除去に最適です。
一方、コリニア・ホーは、硬い土壌やレタスなどの葉の下の雑草に対応可能。葉の下を滑るように作業することで、作物を守りながら雑草を駆除できます。この2つのツールを使い分けることで、畝の雑草管理が効果的に行えます。
2. 通路の管理
畝と畝の間の通路には、Wheel Hoe(ホイールホー)が効果的です。Conor氏は、「Wheel Hoeは通路専用のツールとして最適です。幅広の刃を使い、14インチ幅の通路を一気に除草できます。」と説明します。
ただし、小規模農場では、ホイールホーを畝全体で使用することは非効率的な場合があります。畝ごとに作物間の間隔が異なるため、長柄のツールを使う方が柔軟に対応できます。通路の除草にはホイールホー、畝の雑草管理にはワイヤー・ホーやコリニア・ホーを使うというシステムが、最も効率的な雑草管理方法です。
ツールの特性を理解し、状況に応じて使い分けることで、雑草管理の労力を大幅に削減し、農場全体の作業効率が向上します。
雑草管理がもたらす驚きの効果
作物の品質向上と農作業の効率化
雑草がない状態では、すべてが楽になります。作業が効率化され、収穫時間も短縮されるため、農場全体の運営がスムーズに進みます。
雑草管理を徹底することで、作物の品質は飛躍的に向上します。雑草が作物の成長を阻害することなく、必要な栄養や光を十分に確保できるからです。Conor氏も、「雑草がないことで、作物の品質が一段と高くなり、収穫作業もスムーズになります。」と強調しています。
Precision cultivation(精密耕作)によって、雑草が小さいうちに除去されるため、作物の間に雑草が生え続けることがありません。その結果、収穫時の手間が大幅に軽減され、時間や労力の節約につながります。
雑草管理は単なる「除草作業」ではなく、農場の生産性向上や労働コストの削減を実現する、極めて重要なシステムなのです。
雑草を抑えることで得られる精神的な安心感
農業はすでにストレスが多い仕事です。雑草の問題を取り除くことで、精神的な余裕を持てるようになります。
農業は自然相手の仕事であり、多くのストレスが伴います。その中で、雑草に畑を覆われてしまう状況は、精神的な負担を大きくします。
雑草が少ない農場では、管理が行き届いているという安心感が生まれ、作業中のストレスが軽減されます。また、定期的なPrecision cultivation(精密耕作)を実施することで、「雑草が発生する前に対処する」というシステムが構築され、日々の作業が予測可能になります。
この「予測可能な管理システム」によって、農場運営の不安が軽減され、農作業に対するポジティブな気持ちが生まれます。雑草管理は、精神的な安定と農業の楽しさを取り戻す鍵とも言えるのです。
美しい農場がもたらす視覚的な満足と収益性の向上
「雑草のない農場」は、見た目にも美しく、農場全体が整然とした印象を与えます。Conor氏は、「雑草がない状態は、農場が美しく見えるだけでなく、作物の品質や収穫効率も向上します。」と述べています。
美しい農場は、訪れる顧客やパートナーに対してプロフェッショナルな印象を与え、信頼感を高めます。また、雑草がないことで作物の管理がしやすくなり、収穫時の品質も安定するため、収益性が向上します。
有機農業でも合理的に雑草に対処できる
Neversink Farmに学ぶ「雑草のない農場」の実現方法は、単なる雑草駆除ではなく、Precision cultivation(精密耕作)を軸としたシステムです。適切なタイミングでツールを使い、発芽直後の段階で雑草を除去することで、農場の効率化、作物の品質向上、そして美しい農場の維持が可能になります。
もっとも、”美しい農場”の価値観は人によって異なります。手つかずの自然の中にあって作物が調和しているような農場が美しいと感じる人もいるでしょう。その点はどちらの価値観が否定されるべきものでもないと思います。作り手と販売先の価値観・完成に応じて農法を選択していけばよい話です。
個人的には、雑草管理のストレスを軽減し、楽しさと収益性を両立する環境を実現しているNeversink Farmの取り組みには興味があります。今後も当ブログではNeversink Farmのノウハウを研究していきたいと考えていますので、興味のある方はまたおこしください。
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