【脱サラ就農の記録】300㎡でスモールスタート(露地野菜編)

新規就農

農業の経営を新たに始めるにあたっては多額の設備投資が必要、そうでなければ生産性に秀でた先行する農業経営体にはいつまでたっても追いつけない。これが昨今の常識です。この常識は、農業という分野においてはある程度真実であると思います。一方でこの常識は、脱サラ起業の文脈においてはセオリーから大きく外れています。

会社員から農業経営へとキャリアチェンジを図る場合にこの多額の初期投資問題とどのように向き合えばよいのでしょうか?新規就農者を支援する補助金・融資を活用して設備投資を行う方向性もありますが、私は最小限の初期投資でスモールスタートする道を選びたいと考えています。これが、私の事業1年目の舞台である僅か300㎡の圃場です。

この記事では脱サラ起業におけるビジネスの原則を紹介したうえで、300㎡の圃場使ってどのように農業をスタートするのか、そのリアルな記録をお伝えしたいと思います。新規就農を考えている会社員の方のお役に立てれば幸いです。

ビジネスの原則は「まず買い手を見つけよ」

ドキュメンタリー「覆面ビリオネア」にビジネスの原則を学ぶ

「覆面ビリオネア」をご存じでしょうか。これは、アメリカの起業家で億万長者のグレン・スターンズ氏が登場する、ビジネス成功のための戦略を描いたドキュメンタリーです。この番組は、「アメリカンドリームは死語ではない」というメッセージを世に証明する目的で制作されました。多くの成功者が「成功したのは時代が良かっただけ、今の時代では無理」と言われることが多い中で、スターンズ氏はその言説を打ち破りたいと考えました。

グレン氏は、自らの素性を隠し、縁もゆかりもない土地に移住しました。そして、限られた資金、たった100万ドルで、90日間という短期間に100万ドルの価値を生み出すビジネスを立ち上げることに挑戦します。この企画の中で、グレン氏が見せたのは、資本や経験だけでなく、戦略や考え方、そして「ビジネスの原則」が成功に重要であるということです。この番組はビジネスに関心のある視聴者にとって、ただのエンターテインメント以上の学びを提供してくれます。

「Find your buyer first」(まず買い手を見つけよ)

スターンズ氏のビジネス戦略の中心には、「Find your buyer first」(まず買い手を見つけよ)という原則があります。この原則は、多くの人が誤解しがちなビジネスの基本です。ほとんどの場合、商品やサービスを作った後で買い手を探し始めますが、これはビジネスリスクを高める原因です。グレン氏は、「買い手を見つけてから相手のニーズに応じて仕事を進めるべきだ」と語ります。

ビジネスにおいて、製品がどれだけ優れていても、売れる相手がいなければそれは単なる「ガラクタ」に過ぎません。逆に、事前にニーズを確認し、買い手を確保してから製品を作ることで、失敗のリスクを大幅に下げることができます。この考え方は、特に起業の初期段階や資金が限られている場面で有効です。ビジネスにおいては、誰に向けた商品かを明確にし、ニーズに合わせたサービスを提供することが、成功への近道と言えます。

農業においても「まず買い手を見つけよ」

「まず買い手を見つける」というスターンズ氏のビジネス原則は、農業にも応用可能です。新規就農当初から作物を大量に生産するのではなく、潜在顧客を見つけ、そのニーズに応じた作物の種類や数量を調整することで、効率的に運営できます。農業においても、いかにして需要を確保し、それに見合った供給を行うかが成功の鍵です。

潜在顧客と積極的に会話し、どのような農産物が必要とされているのかを把握することが重要です。顧客のニーズを直接探ることで、無駄な在庫を減らし、確実に売れる商品を提供できるようになります。ビジネスの成功には、確固たる顧客基盤が欠かせないため、まずは少量の栽培から始め、徐々に市場を拡大していくことが効果的です。このような戦略を取ることで、農業もリスクを抑えながら着実に成長していけると考えられます。

「まず買い手を見つけよ」の原則と「マーケットイン」を混同しないこと

「農業は独りよがりのプロダクトアウトになりがちなのでマーケットインの発想が重要」とよく言われます。「まず買い手を見つけよ」の原則もプロダクトアウトの対義語のように感じられるため、「マーケットイン」と混同してしまうリスクが高いです。しかし、両者は全くの別物です。

「まず買い手を見つけよ」:特定かつ具体的な市場・顧客のニーズに焦点をあてた戦略
「マーケットイン」:市場全体のトレンドやニーズに焦点をあてた戦略(広範な市場の要求を満たす)

新規就農者としてニッチを狙うにあたり、市場全体に焦点を当てていてはピンボケにならざるをえません。あくまで具体的な買い手を見つけ、それに合わせて栽培や売り方を組み立てていく努力が必要になると考えています。

「農業は補助金と融資で初期投資」の常識を疑え

「お金の大学」に学ぶ、「借金なんてするんじゃねえ」の教え

両学長が執筆した「お金の大学」は、マネーリテラシーを高めるためのベストセラーとして多くの人に読まれています。その中でも特に強調されているのが、「借金なんてするんじゃねえ」というメッセージです。この一文は、単なる借金否定ではなく、経済的自由を目指すためにリスク管理を徹底することの重要性を示しています。

借金を軽視するのではなく、無駄な借金をせず、手元資金でしっかりと生活や事業を支えることが推奨されています。特に、無謀な借金が自己破産や経済的な束縛につながりやすい現代社会において、「借金をしない選択」が長期的に経済的安定を保つための鍵であることを両学長は繰り返し説いています。

また、収入源を多様化し、貯蓄を確保することで、不測の事態にも柔軟に対応できる財政基盤を築くことの重要性も説かれています。つまり、「お金の大学」は、持続可能な経済生活を築くための方法を具体的に提案しているといえます。

良い借金と悪い借金を理解し、無借金のスモールスタートを意識する

「お金の大学」では、借金を一概に否定するのではなく、良い借金と悪い借金の違いを理解することが重要であると述べられています。良い借金は投資を通じて将来的に利益をもたらす可能性が高い借金で、悪い借金は単なる消費や維持費がかかる負債です。両学長自身やホリエモン氏のように確かな事業立ち上げ手腕があり、借金でレバレッジを効かせることで事業を飛躍的に成功させられる可能性が高い場合、それは良い借金といえます。

一方で、会社員が新たに事業に挑戦する際、特に経験やスキルの蓄積がない段階で多額の借金を負うことは避けた方が良いとされています。無借金のスモールスタートにより、失敗しても経済的ダメージが少なく、再挑戦の余地が残ります。このような方法で事業に取り組むことで、リスクを抑えつつも着実にビジネスを拡大していくことが可能になります。借金をせずに事業を始める選択は、短期的な利益を見込むのではなく、長期的な成功と安定を目指すための賢明な選択肢です。

農業は設備投資ありき?本当に初期投資が必須なのか

農業といえば、設備投資が欠かせないと考える人も多いでしょう。ビニールハウスや農機具の購入には数百万円から数千万円の資金が必要であり、補助金や融資を活用して初期投資を行うのが一般的な流れとされています。しかし、設備投資の負担は大きく、補助金や融資を受けて始めたとしても、事業が計画通りに進まないと返済が重荷になることもあります。また、補助金が途絶えた場合に資金が続かず、結果としてビジネスの継続が難しくなるケースも多く見受けられます。

確かに、大規模な設備投資を行った場合、事業が成功した際の収益拡大のスピードは速いです。だからといって、新規就農の際は大きな初期投資をすべきということにはなりません。それはリスク・リターンの期待値計算を疎かにした考えです。農業だけが例外、そんなわけはないのです。

無借金でのスモールスタートを選ぶことで、リスクを抑えつつも、事業の成長に応じて徐々に投資を増やすことができます。例えば、まず小規模に作物を栽培し、収益が安定してから徐々に規模を拡大する戦略が有効です。これにより、失敗した場合のダメージを最小限に抑えながら、事業を持続的に発展させる道が開けます。農業においても、スモールスタートの考え方を取り入れることで、長期的な視点での経営の安定を図ることができるでしょう。

300㎡でスモールスタート

10㎡⇒300㎡へ

私は2023年に自宅の庭に10㎡ほどの小さな畑をつくり、1シーズン家庭菜園を楽しんでいました。本格的にスモールスタートさせたいなと思っていた私は、同じ市内に住んでいる義祖父さんにつてがないか聞いてみることにしました。義祖父さんはいつも私が10㎡の畑であれこれやっているのをみて「👴ほんなもんこの畑やったら狭いがな」と言ってくださっていて、この時も色んな人に顔つなぎをしていただきました。

最終的には義祖父さんの親戚のご近所の方の畑をお借りすることができました。面積は300㎡。1年単位の契約で、賃料は1万円/年です。小さな管理機は日にちを決めて親戚の方にお借りし、肥料は地域の大きな農園の方から鶏糞をおすそ分けしていただく運びとなりました。

300㎡でミニマルに野菜をつくりながら、潜在顧客と対話する

300㎡という面積は、平日フルタイムで会社員として働きながら管理ができる範囲である点がポイントです。会社員として生活のための収入確保と事業資金の準備を行いながら、野菜を手土産に買い手を見つけるための具体的な対話を開始することができます。

家族構成・収入水準・健康意識など様々な変数がありますが、どのような属性の人がどのようなニーズをもっているのか?そしてどこに大規模農家が手を出す旨みがない領域があるのかを、これから探っていきたい考えです。

スターンズ氏の「まず買い手をみつけよ」の原則、両学長の「借金なんてするんじゃねえ」の原則、この2つのビジネスの原則を守りながら

おわりに:農業は例外ではないし特別でもない

農業には何か清貧なイメージがあり、尊いもの、守られるべきものと考えられることが多いように思います。社会的・文化的な視点でみればそのような側面もあるかもしれませんが、事業者の視点では数多ある産業の1つであるとフラットにみるべきだと考えます。

他の産業と同じように進歩があり、同じように淘汰があります。勝者があり、敗者があります。しかし幸か不幸か農業には補助金や融資施策が相対的に手厚く存在し、潜在的な敗者が延命しているだけの場合も多くあります。

その意味で、我々会社員が農業に挑戦する際には一般的なビジネスの原則を肝に銘じておく必要があるでしょう。スターンズ氏の「まずは買い手を見つけよ」、両学長の「借金なんてするんじゃねえ」。まずはこの2つを胸に刻んで300㎡のフィールドで1年試行錯誤してみようと思います。

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